Home > 僕、と言う名の誰が悪いのか? > 【3】 メグリヌ

【3】 メグリヌ

  • 2009-07-19 (日) 16:28

 一件関係のなさそうなところから妙なモノで、因果とは続いている。
 幻覚とは自分で見るモノではなく、気がついたら見ていることが殆どなのだ、別の言い訳をするならば、それは自分自身の意識でどうにかなることではないのだろう。
 科学的だ、科学的ではない。
 起こる現象全てに理由を求めようとしていた欲求はブームと言う名前で言えば過ぎ去ってしまったのかのかもしれない
 今でこそ何かが起こると化学的にどうだとか動機がどうだといった捜査がなされるが、実は自分たちのおじいさんのその上のおじいさんぐらいまで世代をさかのぼれば未だ呪いだ祟りだといっていた時代なのだ。
 もしかすると自分たちの孫の子供ぐらいになると化学なってものは嘘になっていて、今偽科学なんて呼ばれているものが本当になったりするのかもしれないな。などと僕はそのとき嘯いていた。
 そのとき僕は子供で、未だ発狂はしていなかった。
 僕は十分に気をつけながら大人になったような気がするけれども、大人になるということがどのようなものなのかうまく想像できなかったためだろう。僕が気が付いたときには、もう十全に十分に非常に覆しがたく大人になっていて、十年前はどんな自分だったのか、
  ―――子供だったことは確かだ。思い出せない。
 そのようにこれほどまでに機を使っていた僕でさせそんな始末なのだから、世の中の人たちが自分の子供の頃のことを話すときにまるですべてを把握しているかのごとく胸を張っている姿を見ると、不思議な気持ちになる僕をどうか許してほしい。
 とにかくそのように言ってしまえるほどに僕はずいぶん自分の幼少時代のころのことを注意深く覚えていようとしたし、そのための実践もしたということなのだ。
 例えば、日記をつけたり、テープレコーダーに吹き込んだり、物語を書いたり、絵を描いたり、ラブレターを残しておいたり、そういうことだ。
 でも、僕は忘れてしまった。
 十分なだけの情報が手元に残ることがない。
 僕はそれらを読み返し、同じ時間をかけて自分の声を聞いても、もうその頃自分がいったいどんな風に考えて生きていたのか。…どんな神経伝達をしていて、どのぐらいの呼吸を保っていたのか。僕は細部を忘れてしまった。
 トライアルを何度も繰り返した。
 そして、気が付いたときにはしっかりと子供ではなくなってしまっていたのだ。
 それは突然やってきた。
 そしてそこから僕をもうどこにも動かそうとはしなかった。
 けれど、それも僕がまだまだ発狂するずっと前の話しだ。
 
 そう、結局発狂していた間の時間のことなんて僕はすっかり忘れてしまっているし、それを根深くトラウマにしているのは僕自身ではなく僕の回りにいる人たちなのだ。
 そう、結局のところ僕は彼らを苦しめることしか出来なかったのだ。
 これから幸せにすることは、未来につなげるための~、などと言うかっこいいことではなくてただの言い訳なのだ。
 僕たちは確実にしに向かって歩んでいる。
 たどり着くゴールはそこしかない。
 
 このタイミングで出てきてこんなことを延々と話してしまって本当に申し訳ないと思っている。
 僕は廻濡燐命。メグリヌリンメイと読む。
 そのメグリヌたる僕は、長々と語ってしまったように何のためにか子供の自分を大事にしていた。
 けれどそのメグリヌは僕の子供たる時間を確実に取り上げて言ったのだ。
 子供たろう時間を無邪気に過ごさず、今と同じような冷徹とも言える面白みのない僕が取り上げ、日記に書き綴り続けた。
 『本当に大切なものって、何?主観でしかないんだとしたら君自身は君自身のことをずっとよく見てたんだからわかるよね?わかるはずだよね?』
 とある日の僕が僕に言った。
 それはひどく殺風景な心象で、それは僕の僕自身の子供だったのだろう。
 夢の中か、白昼夢か、忙しすぎて幻影を見たのか、それは幻聴だけだったのか。
 ただただその声は乾いていて、僕は自分ののどが干からびたいどのようになっていることに気が付いた。
 『わからない』
と僕は言った。
 『ふむ、それはおかしなものだね、…僕はもう行くよ、君は大人にでもなるといい』
と彼は言った。
 そして僕は大人になった。
 僕はその後自分の血液分もの水を飲んだ。
 くどいようだがそのときの僕は未だ発狂していなかった。
 
 僕が今ここで話していることは特に意味はない。
 だけど、君はもしかすると一連の事件について、どうして?なぜ?と考えることがあるかもしれないと思ったから。
 僕はそれを経験し、そして通り過ぎた。
 僕にとってはその事件はもう通り過ぎてしまったことなのだけれども、君がそれを聞きたがっているからね。今度は断定だけれども、それは二つ前の台詞を僕が発したときの君の顔があまりにも興味深そうだったからね。失礼だとおもったけれども『本音』を聞かせてもらったよ。
 そうだね、君は知りたがっている。
 事件の全貌と、解決方法と、何が謎であるのかを。
 君たちが呼んでいる呼称を使うのならば僕自身を形容する言葉は一つ。サイキッカとなるだろうね。
 でも僕自身はあまりそれを好まない。
 僕は僕自身を評価できないのだから、その肩書きはどれをもってしても足りず、どれをもってしても過ぎた大きなもののようにも思うからだね。
 話がそれてしまった。
 
 メグリヌの僕が自分自身が発狂していることに気が付いたのは、自分自身について何の記述もしなくなったことに気が付いたときのことだ。
 そのとき僕は何もメモをするものを持っていなかった。
 ふとした買い物を頼まれて、まず胸ポケットに刺さっているボールペンを探してみた。
 すると無いんだ。
 だから僕はいつも入れている内ポケットの万年筆を取り出そうとした。
 しかしそれも無かった。
 仕方なく財布に入れてあるカード型の携帯用ボールペンを取り出そうと思って財布を開けてみた。
 僕はかばんから財布を取り出したんだが、不思議なことに気が付いたんだ。
 財布の中にはノートのようなものが一冊も無い。
 ペンケースも当たり前のように無く、ペンの類も一切刺さっていないんだ。
 これはおかしいと思いながら財布を取り出した。
 さっきまで使っていた財布だよ?
 その財布にはきっとレシートの一枚でもあるだろう。僕は未だそんなことを思っていた。
 財布を開けるとやはりボールペンは無かった。
 レシートはおろか、紙のカードの一枚も入っていない。すべてプラスチックかラミネート加工されたものだけなんだ。
 そんな日もあるだろうと、
 
 …あるわけも無いのだが。
 
 あるかもしれないと思って、僕はその人をまたして携帯電話を探したんだ。
 携帯なら僕、メグリヌでもメモを取ったことがあるからね。
 でも、無かった。
 三台持っていた端末のうち二台が電池が切れたことを理由に家においてあったことは覚えていたのだけれども、仕事で使っているメインの携帯電話は忘れたことは無いと、思い込んでいたようなんだ。
 そう思って僕は最近の自分ではなく、最近の自分を取り巻く環境について考えてみたんだ。
 そうしたら確かにその人たちは僕を見て変な顔をして居たんだ。
 僕は見てのとおり少し変わっているし、少し変わった名前を持っているだろう?
 大丈夫、自覚はしているんだ。
 だけど今回のことは多分その自覚があだになったんだと思う。まぁ、ひとつの要因として、としか捕らえてもらわなくていいと思うのだけれども。
 そのほかの要素がありすぎるからね、わからないんだ。本当のところどうなっているのか。
 また話がずれてしまったね。
 つまり僕は慣れてしまっていたんだね。そういう人の表情や仕草に。
 でも、目の前にいるのは随分同じ時間を過ごしてきた同僚や先輩だ。
 確かに彼らも最初は変な顔をしていたような気はする、でもそんなのって最初だけで、その当時はもう彼らも慣れていたからね、そんな顔は日常の中で見せなかったはずなんだよ。
 でも、彼らは僕にそんな顔をしていたような気がしたんだ。
 
 僕はメモが取れないことに気が付くとともに、そういう周りの状況を照らし合わした時に、その奇妙さがある一定のラインでぴったりとくっつくことに気が付いたんだ。
 凄く単純でシンプルな事だった。

 僕は仕事をしていない。

 わからない。
 随分前から仕事という名前の仕事をしていない、と言う事。
 
 僕がいた部署は生産部署だったからね。
 メグリヌでも、モノを作ることは出来たんだよ。
 でも、そのとき僕は何も生産しない、口だけを動かす人間になっていたことに気が付いたということなんだ。
 何年も十何年も変わらずに続けていた事をやめて、生産活動そのものをやめて、回収もすることはやめて、そしてそこで僕は何もしていなかった。
 そして気が付いていなかった。
 何度も繰り返しになってすまないね。
 
 そしたら僕は気が狂ってしまってしまっていたみたいなんだ。
 世界が変わってしまったことに気が付いたとき、それを元に戻す術は僕は持っていなかった。
 なぜそれが起こったのかわからない状況では誰でもが何も出来ない状況というのが存在するよ。
 そういうものはたいていにおいて嘘だと思っていたのだけれども。
 
 その後のことは夢のようで、もう僕じゃない誰かだった。
 本当は今こうして話しているのも、以前の自分とは違ってしまった何かなんじゃないだろうかと正直思うけれども。
 そのときの僕の混乱はこんなものでは無かったんだ。
 
 だから、僕の手で殺めてしまった人にはすごく申し訳ないけれども、僕自身ではない僕が、そこには居たんだ。
 いくらサイキッカだろうと僕にはあんな動きは出来ないし、今ももちろんやってみろといわれても出来ない。
 なぜならあれは僕ではないからだ。
 手にかけた人数の多さと名前とその劇場型な凄惨な殺人は確かにマスコミを沸かしたけれども、そして僕の記憶にはその映像は残っているけれども、そのときの手の感触はまるでない。
 いや、正確にはあるのだけれども、ノイズが多すぎてきちんとした正確な描画が出来ないんだ。
 警察の人には何度も聞かれたけれども、そのたびに証言が異なっていると怒られるんだ。
 でも、仕方ない。
 わからない事を聞かれても、上手く答える事なんてきっとムリだろう。

 それよりも、僕は人を殺したはずなのに、今はこうしてぴんぴんしている。
 そのときのことは、単なる記憶でしかなくて、僕が気持ち悪いと思うところは、それがまるで映画のように断片的であるところだ。
 メグリヌは最初にも言ったようにひどく記憶を大切にしているからね。
 そんなショッキングな出来事をサンプリングしないわけがないんだ。
 たとえその後にその情報を活用する場所がないとわかっていても、そんな思い切った行動をした僕はメグリヌとしての役割を果たしたはずだよ。

Comments:0

Comment Form
Remember personal info

Trackbacks:0

Trackback URL for this entry
http://platoronical.net/blog/wp-trackback.php?p=121
Listed below are links to weblogs that reference
【3】 メグリヌ from Platoronical White Paper

Home > 僕、と言う名の誰が悪いのか? > 【3】 メグリヌ

Search
Feeds
Meta

Return to page top