- 2009-07-19 (日) 16:26
野田未来はノダミクという読み方をする。
『漢字も四文字ひらがなも四文字と言う名前が少し変な感じじゃない?』
と私に話しかけてきたのが、彼女、未来との始めての会話だったように記憶している。
そんなことはないと、そのとき私は思ったはずだ。
結城沙希というなんとなくどこにでもいそうな私よりもずっとかわいい名前だと思ったこともたぶん間違っていないと思う。
どうしてそんな会話をすることになったのか思い出せないが、とにかくそんな話をすることがあって、私たちは友達になった。
きっかけなんて何でも良いのだ。
一度関係を持ってしまうとそれがどのような関係であろうが、自分自身の生活に直接響いてくるものであることは知っていた。未だ中学生だった頃にお遊びのような大恋愛をした私はそれがもたらしたさまざまな障害に対して頭を働かさねばならなかったし、もちろん神経を使った。
そして気が付いたときには恋人だけが特別なのではなく、友達も先輩も先生も、両親も例外なく関わりと言うものがある以上その力で引っ張り合わされることに気が付いたのだった。
私はとある日の昼下がりだった、季節はどうしても思い出せない。フローリングの床に寝そべって窓から見える太陽が雲に隠されてゆくさまをじっと見ているときにそう感じたのだ。
未来に初めて会ったときに、月並みな感想になるのかもしれないが、とても苦手な意識を持った。
容姿が端麗なわけでも、媚びた仕草があるわけでもない。どこにでもいる、それこそクラスにはもっと目立つ女の子がいた。事実として。
その時はよくは知らなかったが、きっと彼女よりも勉強のできる子はいるだろうし、スポーツができる子も、声が綺麗な子も、いるはずだと私はなぜだかそのとき決めてかかった。
言ってしまえば凡庸な少女なのだ。
今考えると、未来はあまりにも私と同じような気配を持っていたのではないかと思う。
同属嫌悪。
でも、私たちは友達になった。
それはつまり、私たちは別々の個体であったからだ。
そしてそれは未来が私よりも、それこそ私が霞むほどの奇人であって、私の予想を完全に覆してくれたからだった。
未来が奇人であることは周知の事実ではない。
かといって隠している訳ではない。だけどそれはなんというか、とても厳かな気持ちにさせられるのだ。
神や聖人はもしくはそのように在ったのかもしれないと思わせるような雰囲気が彼女を包んでいた。
でも、そんな簡単に神様や聖人がいることはありえないと片方の私は思っていたのだけれども。そんな厳かなモノでなく、彼女が身にまとっているモノは嘘っぱちな『何か』なのだと私は信じていたのだ。
今思うと、どうしてそこまで彼女の事を通常の人間としてみようと、自分が酷く頑張って努めていたのだろう?
簡単に言ってしまえば彼女は予知能力のある(本人は否定していた)人間だった。
それがなんというかひどく遠まわしなのだ。
『大体、佐々木君と里香ちゃんはなんとなく・・・あー・・・糸がね、あるんだよ』
というような、日本語ではない言葉を使った。
基本的にはそんな感じ。
そう、そんな感じなのだ。
いくつかの例外を除くと、彼女の予想のような曖昧な言葉は的を得ていた。
少し先のことは『なんだよ』で締め、過去に起こったことは『だった』と文脈を締めた。
過去に起こったことと入っても、ほとんど当人しか知らないようなそんなことだ。
でも、未来にはそれはなんとなく頭の片隅にあるらしく(英単語のようなものだと話していた気がする)ちょっとしたことを口にすることで友達を何度か傷つけてしまったことがあるらしい。
家族のことも同じように見え、自分を生む前の両親のことや、なんとなく両親がどんな風に老いるのかは、いつかの自分が知ってしまっているらしい。
そのためか、ひどく未来は友達を作るのを避けていた。
私が友達になることは彼女の中では見えない未来だったらしい、知らない発見と初めての未知との遭遇をしたという、そんな心持だったと、日記には書いてあった。(ホラ、日本語が少しつたないところも、なんだか聖人っぽくはないでしょう?)
だから彼女は常に世界のなんとなくの全貌が見えていて、だから彼女はほとんど自分にしか日記をつけなかった。
と言う事らしい。
『ブログでもやればー?』私は鉄棒で、スカートの端を使って何年かぶりに前回りをしながら未来に言った事があった。
『したらさー、あたるーってさ、出版社とか未来の事気に入っちゃって本とかになっちゃって大変よろしいと思うけどな』
今思うとあれは私の失言だったと思う。
『だめだよ、そんなことしたらいけないんだ』未来はまじめな顔で私に言った『だめって決まりになってる、そういうことをするとね、私が世界を創ることになっちゃう、沙希はいやでしょ?私が作る世界なんて、考えるだけでぞっとしない?』
彼女は話を続けた
『小学校の頃にさ、自分は誰かの夢の中で生きていて、本当は自分なんかいないんじゃないかって思ったことない?私はあったな…それで、そっちのほうがどれだけラクなんだろう、って思ってた』
だけど、と一息ついて未だ彼女は続ける。
『そういう世界にいる人がそうじゃないんだって自分で思ってる世界なのに、誰かのものなんて、ひどすぎるじゃない?事情を知っているのはほんの一握りの人達なんだよ?』
未来はため息をついた。
『私は嫌だな』
といって彼女は目を閉じた。
「ごめん」
と私は言った。
そして心の底からそう思った。
ごめんね。ごめんなさい、軽はずみに未来を傷つけてしまったこと。
友達を傷つける行為は大変よろしくない。
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