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【prologue】 - 手紙

  • 2009-07-19 (日) 16:22

 拝啓、前略、謹啓、冠省、…私は知りませんでしたがそれらは全てそれぞれに違う意味を持っているのですね。全然知りませんでした。それに驚くべき事に『、(句読点)』は使っては行けないと言う事らしいのです。全く知りませんでした。社会人になって少し経ちましたが、今更というような驚きを隠さずには居られないところです。
 こんな風に長々と書いてしまっては、前略なんて意味は無いのかもしれませんが、季節の言葉などを使った挨拶等をしていなのできっと大丈夫ですね。
 
 前略 時下ますますご盛栄のことと・・・

 お母様にこんな風に書くのは少しおかしい事ですね。
 書きたかっただけなのです。
 それだけなのです、ですからあまり気にしないで下さい、これに対しての修正の手紙は私には届きません。
 
 何でもいいです。
 こんにちはお母様。
 久しぶりというかこのようにして改まったお手紙を書くのは初めてのことかもしれませんね。
 改まったと言うにしてはあまりにも乱暴な書き始めかもしれませんがそれは私がマナー知らずな故、お許し下さい。社会に出れば私ももう少しまともな人間になると思っていたのですが、云々。
 長くなりそうなので割愛させて頂きますがよろしいですね?
 
 お母様からは遠く離れた娘の私へ多くの手紙を送っていただきましたが、それは心配からだったのでしょうか?義務であったのでしょうか?私にとってはどちらでもよいのですが、どちらかといえば後者のほうが少し気が楽ではありますが、前者のほうがうれし恥ずかしいところであります。
 どちらにしても気に掛けてくださっていた事は事実としてそこに残っているのですね。
 私のほうからはいつも『楷書はやめて、読めないから』とか『わざわざ記念切手を買うために旅行しなくてもいいから』とか『封筒に入るからといって干し柿を入れるのはやめて』など、心からの言葉をお母様に電話口で伝えることが日常でした。そうです、もっぱら電話でした。
 私のほうからこうしてお手紙を書き差し上げることは一度もなかったかと思います。
 もう少し掘り下げると、上京した私からこのようにして改まってお手紙を書くことは無かったと思います。
 小さい頃のことは忘れてください。あれは私の小さい頃のことであって私そのものとは違います。今、お母様がオーバーライドされているそれは私ではありません。
 勘違いしないでください。
 それは私ではなく、私の小さい頃の影なんです。
 …そう、すべては影なんです。
 でも影の話は後でいたします。といっても、その話はすぐにしなければならない事になると私は感じています。
 まずは世間の話からしましょう。近況です。または私がどんな風にして生きていて存在しているのか、お知らせしようと思うのです。
 シリアスな話をする前にどうしてもリラックスした気分になっておかなければならないと思う為です。そうしないこと事には上手く話せるはずの事も十分な力を持って伝える事が出来ないと考えるからです。
 ここだけですからほかの人には恥ずかしいので言わないでいてほしいのですが、お母様にだけ箱の話をできる気がするのです。
 話がそれましたね。
 お母様が思っていらっしゃるように心配してくださったとおり、私は社会の中では少し浮いた存在として今生きています。
 確かに私は今お母様が肩を落とされる姿が見えたような気がしました。娘はあなたの娘です。
 ですからそこでは落胆しないでください。
 そこで手紙をおかれたらこの手紙のうちの九割が読み捨てられたことになり、大事な部分はわからないままうやむやになってしまいます。もしかすると大事な部分はほんのワン・センテンスでさらっと書かれているかもしれません

 何だかんだと最初に頭語を並べたり、近況にならないようなくだらない事を書いたりするのはどれが正しいのかわからないこともありましたが(そして私が混乱している事もあるのでしょう)、一言でも多くの言葉をお母様に届けたいと思うことの一心からです。
 頭語については、最近そういう漫画やアニメや…まぁそういうものが多いのです。
 お母様がわかるものでしたら、クロマキー高校という漫画が私の部屋にあったと思うので、それを開いてみてください。主人公の苦悩がお母様に宛てて書かれているはずです。
 私も青春の大部分についてクロマキー高校があったからこそ自分という個性が形成されていると思うことがあります。

 冗談です。

 もしここでお母様がそれを信じられるようでしたら、娘の私としても考えがあります。
クロマキー高校のことについては、この手紙を読んできっと私に電話するでしょうから、それが終わった後に、読んでみてください。
 信じられないほどくだらなく、しかし最高のエンターテイメントがそこにあると私は思いました。その私の感覚を、お母様と共有したい。

 『あなたと合体したい!』というフレーズのアニメがはやりましたね。

 知りませんか。別にかまいやしませんよ。
 ああ、また私について腐女子だ何だと、見知ったような口で私に言ってくるのでしょう?

 わかります。
 わかりたくありません。一言で片付けてほしくないのです。

 アニメや漫画が好きな私はコスプレをして公園で踊り狂い、動画投稿サイトに自分の作った料理などとは別アカウントでお絵かき風景などをアップロードするような毎日でしたが、そんな私でもヲタクというにはヌルイ。厳しい世界なのです。どうかご理解をお願いします。
 ヲタクの人たちは、確かに対外的に見て(そしてそれを目指そうとした私から言うのも何ですが)気持ち悪い人たちばかりです。でも、ひとつの道を究めるというのは侍の道を進むのと似ているような感じがします。
 ですので、それらに対してよくも知らないのに苦言を呈するような輩(お母様です)はクズです。お母様とお母様が敬愛する宮本武蔵、武蔵とヲタクは同じように道を究めんとする猛者。同志なのです。
 以後気をつけてください。
 で、文章の頭に頭語をおき、その後あまり関係のなさそうなことをぐだぐだと書くのが最近の流行のようであります。これは私が読んだ少ない文献(基本的にはライトのベルです)から得た統計的な知識です。

 ここまで書きましたがお母様、干し柿はいただけません。
 封筒がぐっしょりしている様相を想像できますでしょうか?
 もしできるようであれば、今後はどなたに対してもああいうやり方はやめたほうがいいと思います。
 私からの確かで正しいアドヴァイスです。

 そして本題はやっぱり一瞬です。
 今私は狙われています。
 文頭で触れさせていただきましたね。
 影です。
 私の影が私を狙っているのです。
 確かなことは何一つなく、私の妄想であればこれはなんと言うことはなく、精神科に行けばすむ話しなのです。(実際精神科にもいってみました)
 
 でも、これは違うのです。

 影が、私を、殺したのです。

 書きたい事は一瞬で終わってしまいますね。私がお母様に言いたい事は本当に短く、無味乾燥としているたった一文だけだったのです。

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